外国語対応人材と企業のマッチングアプリ「NEKONOTE」を展開する「トライフル」。以前は効率化とコスト削減を目指しアプリ開発を行っていましたが、よい開発会社に出会えず制作が難航していました。こうした状況を打破し、よりよいアプリ、サービスを作るべく、Solashiへの委託に至りました。今回は、株式会社トライフル代表の久野さんに「よりよいモノを作るために依頼側が意識すべきこと」についてお話を伺います。
外国語対応人材と企業のマッチングアプリ「NEKONOTE」を独自開発
――まずはトライフルさまの事業概要からご紹介いただけますか。
久野さん:トライフルでは、外国語対応人材と企業のマッチングアプリ「NEKONOTE」を運営しています。昨今のインバウンド需要の高まりから、展示会やイベントでは外国語対応が求められています。そうした中「NEKONOTE」を使えば手軽に語学対応ができるイベントスタッフや通訳、コンパニオンなどの注文ができます。必要な人材を1日2万円から注文できたり、働く方には日給15,000円以上と高額の報酬を支払ったりなど、業界内でも新しい取り組みとして注目されています。
――事業を立ち上げた背景や経緯を教えていただけますか?
久野さん:私自身がもともとバックパッカーとして51ヶ国を旅行した経験があり、約100ヶ国の国籍の人と交流してきたことが背景にあります。そうした中、出会った方々は語学力が高いのに、それを仕事などで活かせていないケースが多く見受けられました。
一方、私もイベントの現場で5年ほど働いた経験があり、外国語対応の仕事も受けていました。そのとき、自分の能力や実績に応じてプロジェクトごとに正当に評価され、その分の報酬をきちんと得られるという仕組みが成り立っていたんです。「これが広まれば私が感じた課題を解決できる」という思いから事業として立ち上げるに至りました。
まずはLINEでグループを作るところから始め、ホームページやロゴ、運営の仕組みも自分で立ち上げました。その後半年ほどで事業化できるくらい順調に成長したので、自社アプリの開発へと進展しています。
――LINEグループが始まりだったんですね。アプリの構想はいつ頃からお持ちだったのですか?
久野さん:アプリにする構想は初期からありました。LINEグループとして始めた頃は20名ほどだったのですが、事業として立ち上げたときには数百名の規模まで成長していました。システム化しないと対応が追いつかないという状況で、アプリ化を進める大きな要因になりました。
アプリ開発による業務効率化を期待していた側面もあります。イベント派遣の仕事には煩雑な業務が多いうえ、仲介業者が多数介在し、結果として高額な中間手数料が発生してしまうことも課題でした。手配に関する一連の業務をアプリで自動化し、直接クライアントとキャストをマッチングさせることができれば、運用コストの削減と仲介業者の排除につながります。
それにより「NEKONOTE」では、手数料を他社より低いレートにすることを実現し、登録して働く方たち(キャストと呼んでいます)により多くの報酬が渡るようにしています。
1社目は音信不通、2社目は情熱を感じられず、3社目でSolashiへ
――自動化やシステム化の方法として、アプリ開発に取り組んだんですね。
久野さん:そうですね。創業2年目には、アプリ開発に着手していました。ところが、なかなかいい開発会社には巡り会えませんでした。1社目はきちんとしたアプリを作ってもらえず、チームも2度変わり、途中で音信不通になることもありました。2社目はそこそこのクオリティのものを作ってくれましたが、このプロジェクトへの情熱が感じられず、依頼があったから作っているという雰囲気を感じました。3社目で出会ったのがSolashiさんです。
私は前職でウェブマーケターとしてアプリ開発にも関わっていた経験があります。その当時は開発会社の方が社内に常駐してくれていて、開発会社の方々が私たちの事業を理解してくれていました。それだけでなく、私たちも研修でサイトの作り方などを学び、お互いの領域に歩み寄りながら密にやりとりできる環境になっていたんです。むしろそのような環境が当たり前だったので、Solashiさんに出会うまでは「アプリ開発がこんなに難しいのか」と感じたのが正直なところです。
島添:イベント業界や外国語を使う業務は、システムエンジニアにとって非常に想像しにくい領域です。私たちもこの案件に取り組む直前に展示会へ偶然出展していたので、発注側を体験でき、得られた気付きもありました。まっさらな状態で挑んでいたら、外国語人材の派遣事業を理解することは難しかったようにも感じます。
――どういった経緯でSolashiへの委託に至ったのでしょうか。
久野さん:島添さんとは大学の先輩後輩で、同窓会で再会したのがきっかけです。それから4年ほどしてFacebookで友達申請が来たタイミングで、島添さんがアプリ開発をしていることを知りました。ちょうど開発会社を変えようか、もしくは自社開発するか、と迷っていたタイミングでした。なのでまずは話を聞いてみたいと思い連絡したんです。
島添:話を伺ってみると、事業のさまざまなところに課題があることを感じました。開発はあくまでも問題解決の手段です。問題解決にはまずその問題を適切に理解する必要があります。ですのでまずは、会社としての課題感や解決の方針のすり合わせから取り組んでいこう、という感じで進めていきました。
補助金申請や資金調達など、経営的な課題を幅広く見つけ改善方法を提案
――アプリ開発に苦戦されていた当時、抱えていらっしゃった他の課題感はありましたか。
久野さん:当時は市況が良くない中で、社内の業務改善も相談させていただきました。その結果、アプリだけでなくホームページ作成など社内システム構築全般もお願いしています。最終的に発注の決め手になったのは、事業のことを理解しようとしてくれる姿勢でした。
事業をきちんと理解しようとする姿勢は、テスターやコミュニケーターとして働くベトナムの方々にも感じました。私がベトナムを訪れたときにも、コミュニケーターの方が「NEKONOTE」を広めたいとおっしゃってくれました。たまたま彼女の興味と重なったのかもしれませんが、そう言っていただけることはありがたいですし、そういう気持ちがいいモノを作ろうというモチベーションにつながるのではないでしょうか。
また仕様の穴や課題を積極的に見つけ、改善方法を提案してくれる点はありがたかったです。仕様の細かい箇所を詰めていく中で、ロジックの矛盾が生じている場合はしばしばあります。他の開発会社ではそれらを曖昧なまま作って終わりにしてしまうケースが多かった中、丁寧に考えてくれたので助かりました。
――Solashiとして開発メンバーのモチベーションを高めるために工夫したことはありましたか。
島添:オンボーディングやキックオフの際に、画像などを交えて現場感を伝えることを心掛けました。日本の展示会にベトナムのエンジニアやデザイナーが参加する機会がないので、具体的な業務フローについて理解してもらうために、情報量を多く伝えることには苦労しましたね。
メンバーの高いコミットメントについては、彼らのプロ意識が刺激されたことも要因にあります。以前の開発会社が作ったアプリのソースコードを見て、美しいUIの実現やパフォーマンスの向上を目指してくれました。現場を伝え課題感を共有することで、エンジニアが自発的に動いてくれたのは予想以上でした。意図的ではないにせよ、彼らのプロ意識を刺激できたことが、このプロジェクトの成功へつながったのではないでしょうか。
――今回のプロジェクトでは、アプリ開発だけでなく、業務課題に対する広範な支援をさせていただいたのですね。
島添:以前は開発会社にそのまま費用を支払っていたそうですが、今回のプロジェクトはものづくり補助金の対象になることがわかりました。なのでまずは補助金申請のサポートをしてくれる会社を紹介するところからはじまり、将来的なロードマップを策定し、盛り込みたい要件を整理、オペレーション部の方々とのヒアリングをした、という流れです。会社の経済状況に鑑みて、事業が進捗しないけれどもやりたいことに対して進んでいけるやり方を提案できたと思います。
久野さん:補助金について教えてもらえたことは特に助かりました。以前も申請したものの採用されなかった経験がありましたが、今回は申請の支援をしていただき、結果として開発したい内容に対して十分な予算を確保することができました。アプリ開発だけでなく、広い範囲で事業への支援をお願いできたのは、とても助かりますね。
依頼側・開発側双方がお互いの事業を理解することでよりよいモノが生まれる
――プロジェクトを成功させるために意識されたことはありますか。
久野さん:発注側も開発側へ歩み寄ることが大切だと感じています。実は前職では、発注側が開発側の負荷を理解していないことで、開発会社との間でうまくいかなかった経験がありました。実際、開発側にどれくらい負荷がかかるのかは、開発側の方からは立場上言いにくいと思います。
私たちの事業において、私たちが良いクライアントだと感じる方々は、派遣されたキャストにお弁当を用意してくれたり、着替えのスペースを提供してくれたりと、働きやすい環境を自然と整えてくれます。同じように、アプリ開発の現場で気持ちよく開発者の人たちにお仕事をしていただくには、受託側の意見を聞く必要がありますし、歩み寄ることが求められます。お客様に対してはユーザーインタビューなどで知る機会を作ると思いますが、開発側に対しても相手にあえて歩み寄るような機会を作るよう意識しています。
前職での苦い経験もあり、モノを作るときにはチームとして一緒に作り上げることが大切だと感じています。お互いのことを理解しながら進めることが重要で、それはイベントもアプリも共通しています。例えばこちらからお伝えした仕様にシステム上の穴があることがあります。こうしたときに実際の業務や事業の流れを理解していないと、システムとしての問題点を見つけるのが難しいのです。
依頼側も開発のことを理解していなければ、とんちんかんな指示を出してしまいかねません。より簡単に実装できる方法を模索したり、アプリの仕様で解決できない問題を運営側のルールで解消したりするなど、事業側と開発側がお互いの領域を理解し合うことで、よりよい解決策が見つかると思います。
――最後に今後の展望についてお教えください。
久野さん:いま事業は拡大に入る手前の段階です。市況も良くなっており、インバウンドの増加が見込まれ、問い合わせも増えています。サービスのクオリティを保ちつつ拡大していく必要がある中で、アプリやホームページのブラッシュアップを引き続き進めていけたらと思います。
監修者プロフィール
島添 彰
合同会社Solashi Japan代表。1989年4月生まれ、福岡県出身。大阪府立大学大学院情報数理科学専攻修了。2014年サントリーホールディングスのIT機能をもつ「サントリーシステムテクノロジー株式会社」に入社。自動販売機の配送管理や効率化、販売管理システムの開発から運用、導入まで広く担当する。2017年にYper株式会社を創業、同社のCTO・CPOに就任。アプリ連動型の置き配バッグ「OKIPPA(オキッパ)」の立ち上げ・プロダクトのグロースに携わる。東洋経済社の名物企画「すごいベンチャー100」、Forbes誌による「Forbes 30 Under 30 Asia 2019」に選出される。