システムやソフトウェア開発のアウトソーシングを検討する際、候補となる手法の一つがニアショア開発です。
ニアショア開発では、人件費の安い地方都市にある会社に開発を依頼します。そのためコスト削減を目的に利用されるケースが多く見られます。
また、ニアショア開発と同じように利用されているのがオフショア開発です。オフショア開発は、海外の委託先にシステム開発を依頼します。
いずれも人気の高いアウトソーシングのやり方ですが、具体的にどのような違いがあるかご存知でしょうか。ニアショア開発とオフショア開発の特徴を知って、うまく使い分けをし、投資効率のよいシステム開発ができているでしょうか。
今回は、ニアショア開発をテーマに記事をお届けします。オフショア開発の違いや、メリット・デメリットを解説します。
ニアショア開発かオフショア開発を選択するポイントもまとめました。いかにアウトソーシングを進めるか考えるためのヒントとして、本記事をお役立てください。
島添 彰
合同会社Solashi Japan 代表取締役。サントリーにて社内向けシステムの開発・運用に携わる。Yper株式会社を創業し、CTO・CPOとしてプロダクトの立ち上げ・グロースに従事。
ニアショア開発とは
ニアショア開発とは、システム・ソフトウェアの開発や、開発が完了した後の運用保守業務を地方の開発会社に依頼することです。
ニアショア(Near shore)とは、本来「近くの海岸・沿岸」を意味します。
ニアショア開発では、首都圏より人件費やオフィスの賃料が安い地方都心の開発会社に開発作業を委託します。
具体的には、東北や九州、沖縄地方などです。そのため、東京や大阪、横浜など都市部にある開発会社に依頼するよりも、コストを抑えやすいのが特徴です。
オフショア開発との違い
オフショア開発とは、海外の開発会社やエンジニアにシステム・ソフトウェアの開発を依頼することです。
たとえば、人件費の安いベトナムやタイなどの国に開発を委託することで、費用が抑えられます。
ニアショア開発とオフショア開発は、どちらもコスト削減を目的に利用されます。また、最近では、IT人材不足によりリソース確保のために取り入れるケースも少なくありません。
オフショア開発は、言語や文化が異なる海外の会社に依頼するため、言葉の壁があります。
現地の言語に精通した人材が社内にいない場合、どのような形で海外エンジニアとコミュニケーションをとるのかを事前に決めておく必要があるでしょう。
一方、AIやブロックチェーンなど、日本よりも最先端の技術を取り入れている会社が海外にはあります。そういった会社に開発を頼めば、競合他社との差別化ができるサービスを創り出すことも可能です。
関連記事:オフショア開発とは?基本知識やメリット、失敗しないための対策
ニアショア開発が注目されている理由
近年、ニアショア開発が注目を集めている理由の一つが、オフショア開発のコスト削減メリットが得にくくなっていることです。
「オフショア開発白書」(2023年版)によると、国内開発と比べたオフショア開発のコスト削減効果は、平均21.5%でした。 2022年の調査時と比較し、約7%コスト削減率が低下しています。国内開発とオフショア開発のコストの差が縮まっていることが、指摘されています。
参照:オフショア開発白書(2023年版)│株式会社テクノデジタル
この背景には、海外エンジニアの人件費の高騰があります。オフショア開発国として人気の中国やインドの人件費が軒並み上昇しています。また2023年は、円安が大幅に進行した一年でした。
為替変動は一時的なトレンドかもしれませんが、オフショア開発によるコスト削減のメリットが小さくなっています。そこで、国内で開発を進めやすいニアショア開発が注目されるようになりました。
また、人件費高騰や地政学リスクにより、日本国内にある金融機関では、これまでオフショア開発の主要国であった中国のオフショア開発の規模を縮小する動きもみられています。
出典:「中国オフショアに縮小の動きも 人件費高騰と地政学リスクで」│日経 XTECH
ニアショア開発のメリット3つ
ニアショア開発の代表的なメリットは、以下の3つです。
- 開発コストを抑えられる
- スムーズにコミュニケーションが取れる
- リスク分散につながる
それぞれの内容を詳しく解説します。
1.開発コストを抑えられる
首都圏にある大手の開発会社に委託する場合、エンジニアの人件費が高いため、コストも高くなりがちです。
さらに、土地代やオフィスの賃料、物価も高いため、会社を運営するための固定費・変動費が多くかかります。
これら諸々の費用は地方都市に移ると、東京や大阪の都市部に比べて安価です。地方で働いているエンジニアの単価は、東京で就業するエンジニアに比べて20%程度安いと言われています。
開発コストの多くを占めるのは、人件費です。人件費を抑えやすい地方の会社にシステム開発や運用保守を委託することで、コスト削減が期待できるでしょう。
2.スムーズにコミュニケーションが取れる
オフショア開発に比べると、国内の会社に開発を委託するニアショア開発には、言語の壁や時差がありません。
時間を気にすることなく、日本語でスムーズにコミュニケーションが取れるメリットがあります。翻訳や外国人エンジニア向けの説明をする手間もかかりません。
システムの仕様変更があっても、すぐに連絡を取り合い、迅速に対応することが可能です。その結果、納期やスケジュールの遅れも事前に防ぐことも期待できるでしょう。
また、昨今ではZoomやSlackなどのオンラインコミュニケーションツールを利用し、地方へ向かわなくてもすぐにコミュニケーションが取れます。
3.リスク分散につながる
日本は災害が多く発生する国です。都市部は森林や田畑が少なく、オフィス街はコンクリートに覆われています。
台風や豪雨、豪雪、地震が発生することで、電気・ガス・水道・通信設備など、インフラに大きな被害を与える可能性があります。
仮に地震で長時間の停電が起きると、サービスが停止することで売上が下がったり、ユーザーに不便な思いをさせたりなど、さまざまな悪影響を及ぼしかねません。
ニアショア開発を活用すれば、開発業務を地方の開発会社に委託できるため、災害リスクの分散につながります。
たとえば、過去に自然災害の少ないエリアを選ぶことで、発注側の会社のサービスが停止した際の被害や影響を最小限に抑えられるでしょう。
ニアショア開発のデメリット
ニアショア開発を活用するデメリットも理解しておくことが大切です。ニアショア開発のデメリットとしてよく挙げられるのが、以下の3つです。
- 技術力が高いエンジニアを確保しにくい
- オフショア開発よりもコスト削減効果は小さい
- 依頼する企業の選定が難しい
1.技術力が高いエンジニアを確保しにくい
ニアショア開発のデメリットは、技術力が高いエンジニアを確保しにくい点です。
地方は首都圏よりも人口が少ないため、その分エンジニアの数も少なくなります。開発に十分なエンジニアのリソースを確保できない可能性があります。
とりわけ悩みどころは技術力です。最先端技術を扱う案件や大規模なプロジェクトは、都市部の開発会社が多く担っていることもあり、エンジニア・プログラマーによって実績や技術力の差があります。
そのため「希望するシステムを開発できる、十分なスキル・知識のあるエンジニアやプログラマーが少ない」と悩むことがあるかもしれません。
2.オフショア開発よりもコスト削減効果は小さい
ニアショア開発は、一定のコスト削減効果が期待できます。
都市部の開発会社に委託するよりもコストは割安です。しかし、オフショア開発に比べると、コスト削減効果は小さくなります。
人件費が高騰し、円安が進んでいるものの、オフショア開発のほうがコストを抑えやすいのが現状です。
たとえば、日本人とベトナム人エンジニアの人月単価を比べてみましょう。人月単価とは、ITエンジニア1名が1カ月稼働した際にかかるコストです。
人月単価はベトナム人のプログラマーで40.22万円、シニアエンジニアが49.13万円です。
参照:オフショア開発白書(2023年版)│オフショア開発.com
日本のシステムエンジニアの人月単価は、初級のSEでも60万円~80万円がおおよその相場です。
ニアショア開発を利用しても、ベトナムほどのコスト削減効果は期待できないと考えられます。
関連記事:ベトナムオフショア開発の単価は?IT人材の給与事情と最新動向
3.依頼する会社の選定が難しい
依頼する会社の選定が難しい点も、ニアショア開発のデメリットです。
ニアショア開発の委託先として人気のある地方の会社は、ほかの発注元の案件をすでに受注している場合があります。
少数精鋭で運営している地方の開発会社は少なくありません。よい会社を探しても、そもそもスケジュールの都合がつかないケースもあるでしょう。
ニアショア開発を依頼する場合、会社選びがスムーズにいかないことを考慮し、事前に複数の地方や会社を候補に挙げておくことをおすすめします。
オフショア開発のメリット3つ
オフショア開発のメリット・デメリットも見ていきましょう。オフショア開発の主なメリットは、以下の3つです。
- 大幅なコスト削減効果が期待できる
- エンジニア不足を解消できる
- 納期を短縮できる
1.大幅なコスト削減効果が期待できる
オフショア開発では、日本国内で開発するニアショア開発よりも大幅なコスト削減効果が期待できます。
システムやソフトウェアを開発する費用で、特に大きな割合を占めているのが人件費です。
近年、オフショア開発の委託国として人気が高いベトナムやフィリピン、インドなどの国は日本よりも人件費が安いため、開発費用を抑えやすいでしょう。
各国の詳しいコストは「オフショア開発の費用|国別の単価相場とコストを抑える方法」をご覧ください。
2.エンジニア不足を解消できる
日本国内では、IT人材不足が大きな課題となっています。
2022年に実施したIPAの調査では、85%以上のIT企業がIT人材の量の「不足を感じている」と回答しました。
(参照:デジタル時代のスキル変革等に関する調査(2022年度) 企業調査報告書|独立行政法人情報処理推進機構(IPA))
「開発したいシステムを担える即戦力のエンジニアが足りない」とお悩みの方も多いのではないでしょうか。
オフショア開発を活用すれば、海外の優秀な人材に開発業務を委託でき、エンジニア不足の解消や緩和ができます。
その結果、プロジェクトをスムーズに進行できるでしょう。
関連記事:ITエンジニア不足はなぜ?原因や対策、解決につながった事例を解説
3.納期を短縮できる
人件費の安いオフショア開発では、豊富なリソースを確保できるメリットもあります。
対応する人数が多くなることで、効率よく開発を進められ、納期短縮につなげられます。
昨今のシステム開発は、市場の変化や顧客ニーズに対して迅速に対応するためにスピーディーな開発が求められます。オフショア開発により素早い開発ができることは、大きなメリットです。
ベトナムのオフショア開発会社である、弊社「Solashi Co., Ltd」でもスピーディーな開発をおこなっています。
常に最新の技術を追い求め、開発を効率化するためのサービスやフレームワーク、ライブラリを積極的にご提案します。これにより、お客さまのご要望にも素早くお応えし、開発を進められます。
オフショア開発にご興味がある方は、弊社までお気軽にお問い合わせください。
オフショア開発のデメリット3つ
オフショア開発のデメリットを3つ紹介します。
- コミュニケーションコストが高くなる
- 品質管理の難易度が上がる
- 地政学リスクがある
1.コミュニケーションコストが高くなる
オフショア開発の場合、ほとんどの海外のエンジニアと日本語での会話ができないため、コミュニケーションを取ることが難しくなります。
開発作業の実装ポイントや注意点などの細かなニュアンスが伝わりづらく、コミュニケーションコストが高くなりがちです。
オフショア開発では、認識齟齬をなくすことを目的とした会議を頻繁に実施したり、チャットツールを積極的に活用したり、コミュニケーションを密に取ることが重要です。
関連記事:オフショア開発におけるコミュニケーション課題の原因と解決策5選
2.品質管理の難易度が上がる
オフショア開発のデメリットは、日本と委託先国との物理的な距離があるため、品質管理が疎かになりやすい点です。
コミュニケーションが取りにくいだけでなく、日本国内で開発作業を進めるときよりも品質管理の難易度は高くなります。
品質管理が疎かになると、システムの品質低下や、作り直しなど、コスト増大や納期遅延につながるため注意が必要です。
3.地政学リスクがある
オフショア開発の委託先国によっては、地政学リスクがあります。
地政学リスクとは、ある特定の地域が抱えている政治的、もしくは軍事的な緊張の高まりにより、その地域や関連する国々の経済を不透明にするリスクです。
また、歴史的な因縁により反日運動が高まり、委託国内でデモが起きるリスクもあります。
委託先国で何かが起こった場合、開発作業をスムーズに進められなかったり、途中で中断せざるを得なくなったりする可能性も出てくるでしょう。政府の指示で事業活動そのものが困難になることもありえます。
オフショア開発では、ベトナムやシンガポールのような親日国や政治体制が安定している開発会社を選ぶことが大切です。
ニアショア開発かオフショア開発、どちらを選ぶべき?
ここまで紹介したニアショア開発とオフショア開発のメリット・デメリットを踏まえ、システム開発を依頼する際にどちらを選ぶべきなのでしょうか。
ここでは、ニアショア開発かオフショア開発を選ぶ際のポイントを3つ紹介します。
コミュニケーションの取りやすさならニアショア開発
コミュニケーションの取りやすさを重視するなら、ニアショア開発がおすすめです。
ニアショア開発は日本語でやり取りできるため、システムに関する要望を正確かつ詳細に伝えられます。特に大規模で複雑なシステム開発では、日本語でやり取りしたうえでスムーズに開発を進められるでしょう。
オフショア開発は言葉の壁があるため、認識や完成イメージに齟齬が生まれやすくなります。
このようなリスクを回避するには、発注会社と現地のエンジニアとの間でやり取りをおこなうプロジェクトマネージャーやブリッジSEのアサインが必要です。
チームのマネジメントや品質管理を任せられる人材がいない場合は、ニアショア開発のほうが円滑に進められます。
開発コストを抑えるならオフショア開発
開発コストを抑えることを重視するなら、オフショア開発がおすすめです。
前述した通り、オフショア開発は国内の地方よりも、さらに人件費が安い海外に依頼します。そのため、より高いコスト削減効果が期待できるでしょう。
オフショア開発の委託国には、優秀なエンジニアを豊富に抱えている会社も多くあります。希少なエンジニアのリソースを日本よりも安く確保するだけでなく、万全のチーム体制で高品質な開発を叶えられます。
開発コストの削減を目的にオフショア開発を選択するなら、海外のどの開発会社に依頼するのかを慎重に決めることがおすすめです。
複数社から見積もりを依頼し、開発コストやアサインできるエンジニアの数やレベル、チーム体制を比較したうえで依頼先を決めましょう。
日本国内の災害対策をするならオフショア開発
日本国内の災害対策を重視するなら、オフショア開発がおすすめです。
ニアショア開発では災害時のリスクを分散できますが、より日本よりも災害が少ない海外に依頼したほうが災害リスクは小さくなります。
地震被害によるサービス停止のリスクが気になる方は、オフショア開発の活用をご検討ください。
ただし、国によって災害リスクは異なる点は認識する必要があります。オフショア開発を委託する国の災害リスクや地政学リスクは、事前に確認しましょう。
関連記事:システム開発のリスクとは?発生する要因やリスク管理方法を解説
ニアショア開発の会社探しでお困りならSolashiまで
ニアショア開発をテーマにオフショア開発の違い、メリット・デメリットを紹介しました。
それぞれのメリット・デメリットを踏まえ、自社に適したシステム開発会社を検討しましょう。
ニアショア開発と比べて、オフショア開発にご興味がある方は「Solashi Co., Ltd」までご相談ください。
弊社では伴走型支援や、IT導入コンサルティングサービスをおこなっています。
在籍しているエンジニアは、ハノイ工科大学やベトナム国家大学、貿易大学等のトップ校出身者を中心に採用しております。優秀なエンジニアのリソースを確保し、高品質な開発を実現させることが可能です。
さらに、事業立ち上げやスタートアップ経験のある日本人PMも複数在籍しています。システムの企画段階からサポートいたします。会社選びに迷っている方は、ぜひ「Solashi Co., Ltd」までお気軽にお問い合わせください。
島添 彰
合同会社Solashi Japan代表。1989年4月生まれ、福岡県出身。大阪府立大学大学院情報数理科学専攻修了。2014年サントリーホールディングスのIT機能をもつ「サントリーシステムテクノロジー株式会社」に入社。自動販売機の配送管理や効率化、販売管理システムの開発から運用、導入まで広く担当する。2017年にYper株式会社を創業、同社のCTO・CPOに就任。アプリ連動型の置き配バッグ「OKIPPA(オキッパ)」の立ち上げ・プロダクトのグロースに携わる。東洋経済社の名物企画「すごいベンチャー100」、Forbes誌による「Forbes 30 Under 30 Asia 2019」に選出される。