企業のIT業務は、システム開発から運用、セキュリティ管理、ユーザーサポートまで多岐にわたります。特に、システム開発においては慢性的なエンジニア不足が課題となっています。これらの課題を解決し、IT業務全体の効率化を図る強力な手段が、ITアウトソーシングです。
特にシステム開発分野では、専門性の高い外部リソースの活用が急速に広がっています。しかし、外部委託の経験がない企業にとっては、具体的な進め方やメリットがイメージしにくいかもしれません。
「ITアウトソーシングのメリットを知りたい」
「アウトソーシングの会社を選び方を知りたい」
このような方に向けて、本記事ではITアウトソーシングの基本、導入・運用の具体的なステップを解説します。エンジニア不足でお悩みの方々に、特に有益な情報をお届けします。ぜひ、御社のIT戦略とシステム開発の効率化にお役立てください。
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島添 彰
合同会社Solashi Japan 代表取締役。サントリーにて社内向けシステムの開発・運用に携わる。Yper株式会社を創業し、CTO・CPOとしてプロダクトの立ち上げ・グロースに従事。
ITアウトソーシングとは
ITアウトソーシングとは、企業がIT関連業務を外部の専門企業に委託することです。システム開発、インフラ管理、セキュリティ対策など、幅広い業務が対象となります。自社でこれらの業務を全て行うには、多額の初期投資や運用コストが必要です。アウトソーシングを活用することで、企業はリソースとコストを効率的に管理できます。
近年、このITアウトソーシング市場は急速に拡大しています。市場調査会社REPORTOCEANの報告によると、2021年から2027年にかけて、年平均成長率7.7%以上が見込まれています。この成長は、デジタル化の進展に伴い、専門性の高いIT業務を外部委託する企業が増加していることを示唆しています。
(参照:PR TIMES │ITサービス・アウトソーシングの世界市場は2027年まで年平均成長率7.7%で成長すると予想される)
ITアウトソーシングとSESの違い
ITアウトソーシングと混同されやすいのが、SES(システムエンジニアリングサービス)です。2つの違いをまとめると、以下のようになります。
項目 | ITアウトソーシング | SES |
業務範囲 | IT関連業務全体または一部 | 特定のプロジェクトや作業 |
人材配置 | 外部企業が業務を担当 | 専門技術者を顧客企業に派遣 |
主な目的 | コスト削減と業務効率化 | 一時的に必要な特定スキルの補強 |
契約期間 | 比較的長期的 | 比較的短期 |
ITアウトソーシングは長期的な業務効率化に、SESは短期的な技術力補強に適しています。これらの違いを理解することで、企業は自社のニーズに合ったサービスを選択できます。
ITアウトソーシングの形態
ITアウトソーシングの形態は、大きく下記の5つに分けられます。
形態 | 概要 |
フルアウトソーシング | 企業のIT業務全般を外部企業に委託する(システム開発やインフラ管理、運用・保守、セキュリティ対策など) |
ホスティング | サーバーやシステムなどのインフラを外部のデータセンターで管理・運用する形態 |
ハウジング | 自社で保有するサーバー機器を外部のデータセンターに設置し、物理的な管理や保守を委託する形態 |
ヘルプデスク | IT関連の問い合わせやサポート業務を外部に委託する形態 |
常駐サービス | 外部のITエンジニア・技術者が企業内に常駐し、IT業務をサポートする形態 |
ITアウトソーシングで委託できる業務
ITアウトソーシングで委託できる主な業務は下記のとおりです。
委託できる主な業務 | 概要 |
テクニカルサポート | ・ハードウェア、ソフトウェアの問題解決・ネットワークトラブルの対応・ユーザーからの問い合わせ対応 |
システムマネジメント | ・サーバー、ネットワークの管理・運用・ソフトウェアの更新・保守・ITインフラ全体の監視・最適化 |
ツール保守・RPAの導入 | ・業務効率化ツールの選定・導入・RPA(Robotic Process Automation)の実装・導入後の保守・改善支援 |
システム開発・改修 | ・新規システムの設計・開発・既存システムの改修・機能追加・レガシーシステムのモダナイゼーション、アプリケーション開発、など |
PMO | ・IT関連プロジェクトの計画立案・進捗管理、リソース配分の最適化・リスク分析・対策立案 |
企業は自社の業務内容に応じてこれらの業務を委託することで、コスト削減や業務効率化などのメリットが期待できます。
ITアウトソーシングが注目されている理由
現代のビジネス環境において、企業は効率化とイノベーションの両立という大きな課題に直面しています。この課題に対処するため、ITリソースの最適な活用が不可欠となっています。そこで注目を集めているのが、ITアウトソーシングです。ITアウトソーシングが重要視される主な理由は以下の3点です。
- 業務効率化の必要性が高まっているため
- DXの必要性が高まっているため
- コア業務に専念するため
これらの理由は、企業が直面する課題と密接に関連しており、ITアウトソーシングがそれぞれの課題解決に貢献します。以下、各理由について詳しく解説していきます。
業務効率化の必要性が高まっているため
企業の競争力強化には業務効率化が不可欠ですが、多くの企業ではIT人材の不足や専門知識の欠如が障壁となっています。
アウトソーシングを活用することで、企業は最新技術や効率的な業務プロセスを迅速に導入可能です。また、自社のIT人材育成にかかる時間とコストを削減しつつ、高度な専門知識を活用できるメリットがあります。結果として、企業は本来の強みを活かしたコア業務に集中しながら、全体的な生産性向上を実現できるのです。
DXの必要性が高まっているため
DX(デジタルトランスフォーメーション)は、デジタル技術を活用して業務プロセスを革新し、企業の競争力を高める取り組みです。しかし、DX推進には高度なIT技術と運用ノウハウが必要で、多くの企業が人材やリソースの不足に直面しています。
ITアウトソーシングは、この課題を解決する有効な手段です。外部の専門業者の知見や最新技術を活用することで、DXの推進が可能になります。特にAI、クラウド、データ分析などの先端技術分野では、アウトソーシングの活用が効果的です。これにより、企業は迅速かつ効率的にDXを推進し、市場での競争優位性を確保できます。
コア業務に専念するため
現代のビジネスにおいてITは不可欠ですが、全ての企業がIT業務に精通しているわけではありません。特にITに不慣れな企業では、IT関連業務が大きな負担となり、本来注力すべきコア業務にリソースを十分に割けないことがあります。これは企業の強みを活かせず、成長の妨げになる可能性があるのです。
ITアウトソーシングを活用することで、企業は不得意な分野を外部に委託し、自社の主力業務に集中できます。例えば、製造業やサービス業の企業がシステム運用を外部委託することで、製品開発や顧客サービスの強化に注力できます。これにより、企業はコア業務を強化し、ビジネスの成長を加速させることができます。
アウトソーシングは、企業がコア業務を強化し、ビジネスの成長を加速させるための有効な手段といえるでしょう。
ITアウトソーシングを利用するメリット
ITアウトソーシングを利用することで、企業は下記のメリットを得られます。
- 人件費・運用コストを削減できる
- 業務品質の向上が期待できる
- 市場やビジネスニーズの変化に柔軟に対応できる
これらのメリットは、企業の競争力強化や経営効率の改善に直結します。ITアウトソーシングを活用することで、企業は自社のコア業務に集中しつつ、高度なIT専門知識を効果的に取り入れることができるでしょう。以下、それぞれのメリットについて詳しく解説します。
人件費・運用コストを削減できる
ITアウトソーシングの主要なメリットの一つは、コスト削減です。
社内でIT業務を実施する場合、ITエンジニアの採用・育成、サーバーやネットワーク機器の維持管理、ソフトウェアの更新など、多くのコストが発生します。外部の専門業者に委託することで、これらの費用を大幅に削減できます。
また、社内スタッフは本来の業務に集中できるため、生産性の向上にもつながります。さらに、ITインフラの管理や保守を委託することで、設備投資や維持費のコスト削減も実現できるでしょう。
結果として、企業全体の経費削減と効率化が図れるのです。
業務品質の向上が期待できる
ITアウトソーシング先の専門業者には、高度な知識とスキルを持つスタッフが多数在籍しています。こうした専門家に業務を委託することで、業務品質の大幅な向上が期待できます。
最新のIT技術やベストプラクティスを活用した効率的な業務遂行が可能となり、企業の競争力強化につながります。また、AIやクラウド技術などの先進技術に精通した業者を選ぶことで、より革新的で付加価値の高いサービスの提供も可能になります。結果として、企業全体の技術力と業務効率が向上し、顧客満足度の改善にもつながるのです。
市場やビジネスニーズの変化に柔軟に対応できる
ITアウトソーシングの大きな利点は、市場やビジネスニーズの変化に応じてITリソースを柔軟に調整できることです。企業の成長段階や事業環境に合わせて、必要なITサポートの規模や専門性を迅速に変更可能です。
例えば、事業拡大時には追加のシステム開発や運用支援を受けられ、逆に事業縮小時にはリソースを削減できます。また、新技術の導入が必要な場合も、専門知識を持つ外部の人材をすぐに活用できます。
この柔軟性により、企業は常に最適なIT体制を維持しつつ、コスト効率も向上させることができるのです。結果として、市場の変化に迅速に対応し、競争力を維持・強化することが可能になります。
ITアウトソーシングのデメリット
ITアウトソーシングにはデメリットもあります。主なデメリットは、以下の3つです。
- ノウハウが自社に蓄積されない場合がある
- 委託先のセキュリティ対策を入念に確認する必要がある
- 余分なコストが発生する可能性がある
これらのデメリットを事前に理解し、適切な対策を講じることが、ITアウトソーシングを成功させる鍵となります。以下、それぞれのデメリットについて詳しく解説していきます。
ノウハウが自社に蓄積されない場合がある
ITアウトソーシングの重要なデメリットの一つは、技術的ノウハウが自社内に蓄積されにくいことです。外部にシステム運用を全面的に委託すると、社内のIT関連スキル向上の機会が減少してしまいします。
これにより、将来的な内製化やシステム改善の際に、自社内で十分な知識や経験がない状況に直面する可能性があるのです。また、外部への依存度が高まることで、技術的な意思決定や問題解決における自主性が損なわれるリスクもあります。
このリスクを軽減するには、アウトソーシング先と積極的に知識共有を実施し、社内人材の育成も並行して進めることが重要です。将来的な内製化も視野に入れ、計画的にノウハウを蓄積していけるような体制づくりを目指しましょう。
委託先のセキュリティ対策を入念に確認する必要がある
ITアウトソーシングでは、自社の機密情報や重要データを外部に委託するため、セキュリティリスクが高まる可能性があります。情報漏洩や不正アクセスを防ぐため、委託先のセキュリティ対策を徹底的に確認することが不可欠です。具体的には、データ管理方法、アクセス権限設定、暗号化技術の使用状況などを確認し、契約段階でセキュリティ条件を定めるとよいでしょう。
また、委託先が情報セキュリティマネジメントシステム(ISMS)認証を取得しているかどうかも、重要な判断材料となります。ISMS認証は、組織的・人的・物理的・技術的なセキュリティ対策が適切に実施されていることを示す国際規格です。ISMS認証を持つ企業は、継続的なリスク評価と改善をおこなっており、高度なセキュリティ管理体制を維持していると考えられます。
このような企業を選択することで、自社のデータ保護をより確実なものにできるでしょう。
余分なコストが発生する可能性がある
ITアウトソーシングでは、予想外の追加コストが発生するリスクがあります。例えば、包括的な契約で不要なサービスにも費用を支払ったり、予期せぬシステム変更で追加費用が生じたりする可能性などが考えられます。
このリスクを軽減するには、以下の対策が効果的です。
- 必要な業務を絞り込む
- 定期的に委託内容を見直す
- 委託内容を曖昧にせず、しっかり確認する
また、複数の委託先から見積もりを取り、費用対効果を比較検討することも重要です。これらの対策により、コスト効率の高いITアウトソーシングの実現が可能となります。
ITアウトソーシングを導入・活用するステップ
ITアウトソーシングを導入・活用する際は、下記の流れで実施しましょう。
- 自社の課題を整理し、アウトソーシングの目的を明確にする
- 委託する業務範囲を決める
- 業務を委託する企業を選定する
- 契約の締結
- ITアウトソーシングの実施
- 評価・改善
1.自社の課題を整理し、アウトソーシングの目的を明確にする
自社が抱えている課題を整理しましょう。たとえば、下記のような課題が考えられます。
- システム運用にかかる工数が多すぎて、コア業務に時間が割けていない
- ITインフラが不安定でトラブルが頻発している
- ITインフラやシステム運用にかかるコストが予算を超えている
- ITエンジニアを確保できず、システムの運用・開発が遅れている
現場スタッフへのヒアリングなどを通して、実際の業務で何が障害になっているか、どのような支援が必要かを明確にしましょう。その上で、アウトソーシングを利用する目的を明確にします。
【目的の例】
- IT業務を外部に委託し、社内リソースを製品開発や営業などの主要業務に集中させたい
- 最新技術に精通した専門家に委託することで、新しいシステムや技術を導入したい
- 運用コストを外部委託することで削減し、浮いた予算を他のビジネス領域に振り分けたい
こうした具体的な目的を持つことで、委託する業務内容の判断や委託先の選定がしやすくなります。
2.委託する業務範囲を決める
委託する業務範囲を決めます。どの部分を自社で実施するのか、どの部分を委託するのかの線引きを明確に決めることが重要です。業務範囲を明確にすることで、委託先とのやりとりがスムーズになります。
また、委託範囲が曖昧だと、自社と委託先企業の業務が重複し、無駄なコストが発生するリスクがあります。事前に範囲を定義しておくことで、双方の役割を明確にし、重複作業を避けることが可能です。
委託範囲の決定には、「業務の質を維持または向上できるか」という視点が重要です。自社の専門性が高い業務や重要な意思決定が必要な業務は内部で保持し、それ以外の業務を外部委託するなど、バランスの取れた配分を心がけましょう。全体的な業務フローを俯瞰し、最適な業務分担を設計することが、効果的なアウトソーシングの基盤となります。
3.委託するアウトソーシング先を選定する
業務を委託するアウトソーシング先を選定しましょう。複数の候補企業をピックアップし、各社の強みや実績を詳細に調査します。選定基準として、前段階で明確にした自社の目的や業務範囲との適合性を重視しましょう。具体的には、対象業務の開発・運用実績、技術力、サポート体制、セキュリティ対策などを評価します。
特に、ITアウトソーシングでは機密情報の取り扱いが重要となるため、委託先のセキュリティ対策には細心の注意を払う必要があります。ISO27001などのセキュリティ認証取得の有無、情報漏洩対策、不正アクセス防止策などを詳細に確認し、自社のセキュリティ要件を満たす企業を選定することが重要です。
4.契約の締結
アウトソーシング先を選定したら、契約の締結を進めましょう。契約書には下記の項目に関する詳細を明記します。
- サービスの提供範囲
- 料金体系
- 契約期間
- セキュリティ対策
- サービスレベルアグリーメント(SLA)
これらを明確にすることで、将来的なトラブルを未然に防ぎ、円滑なアウトソーシング運用の基盤を築くことができます。
5.ITアウトソーシングの実施
ITアウトソーシングの実施段階では、契約で定めた内容が実行されているか確認しましょう。定期的なレビューや進捗報告会を設け、サービスの進捗状況や問題点を共有することが大切です。
また、委託先とのコミュニケーションを密に保ち、相互理解を深めることで、より効果的な連携が可能になります。この段階で適切な管理と調整を実施することで、アウトソーシングの効果を最大限に引き出し、長期的な成功につなげることができます。
6.評価・改善
ITアウトソーシングを成功させるには、定期的な評価と改善が不可欠です。具体的には以下のステップを踏みます。
- 定期的な評価:月次や四半期ごとに、サービスの品質、コスト効率、目標達成度を確認します。
- 課題の特定:評価結果から、現在の問題点や将来的なリスクを洗い出します。
- 改善策の立案:特定された課題に対して、委託先と共に具体的な改善案を検討します。
- 契約内容の見直し:必要に応じて、業務範囲や条件の調整を行います。
- 新たなニーズへの対応:企業の成長や市場の変化に合わせて、新しいサービスの追加を検討します。
このサイクルを継続することで、常に最適な状態でITアウトソーシングを活用できます。
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ここでは、ITアウトソーシングの概要、メリット、そして導入・運用のステップについて解説しました。適切なアウトソーシングの活用により、IT業務の効率化、コスト削減、最新技術の迅速な導入が可能になります。さらに、専門性の高い業務を外部に委託することで、自社のコア業務に集中できるメリットもあります。
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島添 彰
合同会社Solashi Japan代表。1989年4月生まれ、福岡県出身。大阪府立大学大学院情報数理科学専攻修了。2014年サントリーホールディングスのIT機能をもつ「サントリーシステムテクノロジー株式会社」に入社。自動販売機の配送管理や効率化、販売管理システムの開発から運用、導入まで広く担当する。2017年にYper株式会社を創業、同社のCTO・CPOに就任。アプリ連動型の置き配バッグ「OKIPPA(オキッパ)」の立ち上げ・プロダクトのグロースに携わる。東洋経済社の名物企画「すごいベンチャー100」、Forbes誌による「Forbes 30 Under 30 Asia 2019」に選出される。