ソフトウェア開発において、開発のスピードを優先するため後で修正が必要な不完全な設計を導入することを技術的負債といいます。品質とスケジュールのバランスを取りながら開発を進める中で、技術的負債が原因で開発がスムーズに進まないケースが見られます。
「技術的負債について詳しく知りたい」
「技術的負債の原因、解消する方法を知りたい」
このような方に向けて、技術的負債の概要や種類について解説します。技術的負債の原因や解消する方法も解説しますので、参考にしてください。
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島添 彰
合同会社Solashi Japan 代表取締役。サントリーにて社内向けシステムの開発・運用に携わる。Yper株式会社を創業し、CTO・CPOとしてプロダクトの立ち上げ・グロースに従事。
技術的負債とは
技術的負債(Technical Debt)とは、ソフトウェア開発において将来的な修正や改善が必要になる潜在的なコストを指します。これは主に、エンジニアが納期を優先し、十分な品質を確保できないコードや設計を選択することで発生します。
技術的負債が蓄積されると、将来的に余分な修正コストが発生したり、システムの品質や保守性が低下したりする可能性があります。このため、開発チームは常に技術的負債を計画的に解消していくことが必要です。
ソフトウェア開発における品質とスピードの両立が求められる中、技術的負債の管理は重要な課題となっています。
技術的負債の由来
技術的負債(Technical Debt)という概念は、1992年にソフトウェア開発者のワード・カニンガム氏が考案しました。カニンガム氏はwikiの発明者としても知られています。彼がこの言葉を生み出した主な目的は、技術者以外のステークホルダーにリファクタリングの重要性を説明することでした。リファクタリングとは、プログラムの外部動作を変えずに内部構造を整理する作業のことです。
カニンガム氏は、技術的負債を金銭的な負債に例えて説明しました。つまり、短期的な利益のために急いでソフトウェアを開発すると、後に「返済」が必要になるという考え方です。この「返済」とは、後日行うべきコードの改善や最適化を指します。
この概念は、ソフトウェア開発における短期的な利益と長期的な実行可能性のバランスを考える上で重要な指針となっています。
技術的負債の例
技術的負債は様々な形で現れます。主な技術的負債の種類とその具体例を下記にまとめます。
技術負債の種類 | 具体例 |
コード品質 | ・スパゲッティコード(複雑で整理されていないコード)・統一性のない変数名やクラス名による低い可読性・モジュール間の強い依存関係 |
運用 | ・DevOps、DevSecOpsの未導入・コードチェックやデプロイの自動化不足・低い作業品質 |
アーキテクチャ | ・古い技術の使用による新技術対応の困難さ・低いシステムパフォーマンス・機能追加や修正コストの増加 |
その他 | ・資料やルールの未文書化・曖昧な文書化・議論内容の未記録・確認やミーティング工数の増加 |
このように、技術的負債は開発プロセスのさまざまな場面で発生します。技術的負債を適切に管理しないと、長期的にプロジェクトの効率と品質に悪影響を及ぼす可能性があります。
技術的負債が与える影響
技術的負債の蓄積は、ソフトウェア開発プロジェクトに多大な悪影響を及ぼします。代表的なものは以下の4つです。
- 生産性が低下する
- 品質が低下する
- 開発コストが増加する
- 顧客満足度が低下する
これらの影響は相互に関連し、プロジェクトの成功を脅かす要因となります。各影響の具体的な内容を理解し、適切な対策を講じることが重要です。
生産性が低下する
技術的負債の増加に伴い、開発チームの生産性は著しく低下します。負債が蓄積されたシステムは、簡単な変更さえも複雑な作業となり、改修に多大な時間を要します。そのため、開発者は新機能の実装よりも、既存コードの理解と修正に時間を費やすことになってしまうのです。結果として、本来取り組むべき開発タスクに十分な時間を割けなくなり、プロジェクト全体の遅延を招きます。
また、コードの複雑さが増すほど、チーム内でのコミュニケーションや知識共有も困難になる点も問題です。これにより、新メンバーの参加や技術の継承が困難になり、結果として生産性の低下を招いてしまいます。
品質が低下する
技術的負債の蓄積は、システムの品質と信頼性を低下させます。負債が多いシステムは、バグやエラーが発生しやすくなり、それらの発見や修正も困難になります。このような状況では、新機能の追加や既存機能の改善が難しく、製品の進化が妨げられてしまうのです。
低品質なシステムは、ユーザーエクスペリエンスを著しく損ない、製品やサービスの評判を低下させてしまうでしょう。
開発コストが増加する
技術的負債が多くなると、コードの修正やリファクタリングが必要となり、結果的に開発コストを増加させます。また、複雑化したシステムでの作業は予想外の問題を引き起こしやすく、追加の修正や対応が必要になることも少なくありません。これらの作業に伴う人件費や機会損失は、当初の予算を大きく上回る可能性があります。
さらに、技術的負債によって新機能の開発速度が低下すると、市場投入の遅れによる機会損失も発生します。長期的には、これらのコスト増大が企業の収益性を圧迫し、競争力の低下につながる恐れがあるのです。
顧客満足度が低下する
技術的負債の影響は、最終的に顧客満足度の低下に直結します。負債が多いシステムは、頻繁なバグの発生や不安定な動作、パフォーマンスの低下などの問題を抱えています。これらは直接的にユーザーエクスペリエンスを損ない、製品やサービスへの信頼を失わせてしまうのです。
特に競争の激しい市場では、こうした問題が顧客の離反や競合サービスへの移行を招く恐れがあります。結果として、企業の売上や市場シェアの低下、ブランド価値の毀損など、ビジネス全体に深刻な影響を及ぼしてしまうのです。
技術的負債の種類
技術的負債の種類は、大きく下記の3つに分けられます。
- 意図的な技術的負債
- 意図しない技術的負債
- 避けられない技術的負債
それぞれの内容を解説します。
意図的な技術的負債
意図的な技術的負債は、ビジネス戦略の一環として意識的に選択されます。主に、製品の早期リリースによる市場シェアの獲得や競争優位性の確保を目的としています。この場合、企業は将来的な改善を前提に、一時的に不完全なコードや設計を受け入れます。
この戦略により、製品を迅速に市場投入できる一方で、将来的な改修コストや潜在的なリスクも考慮する必要があります。
意図しない技術的負債
意図しない技術的負債とは、開発チームやエンジニアが意図せず引き起こした技術的な負債のことです。主な原因は、開発者の技術不足や設計ミス、計画にない変更、偶発的なミスなどが挙げられます。
意図しない負債は気づくのが遅れがちで、対応が困難な場合も多くあります。蓄積すると、システムの保守性や拡張性が低下し、長期的には運用コストの増加につながってしまうでしょう。
避けられない技術的負債
避けられない技術的負債は、技術の進化やビジネス環境の変化に起因します。例えば、使用している技術のサポート終了や、新たな市場要求への対応などが該当します。
開発時点での予測は困難ですが、この種の負債の解消は、最新技術の導入や市場変化への適応につながります。定期的な技術更新計画を立てることで、影響を最小限に抑えられます。
技術的負債が発生する主な原因
技術的負債は、ソフトウェア開発プロセスの様々な段階で発生する可能性があります。主な原因としては、以下のものが挙げられます。
- 複雑なコード
- テストが不十分
- 古いシステム・技術
- IT人材の技術不足
これらの問題は、多くの企業が直面する共通の課題です。適切に対処しないと、長期的には開発効率の低下、製品品質の劣化、さらにはビジネス機会の損失につながる可能性があります。
以下、各原因について詳しく見ていきましょう。
複雑なコード
コードの過度な複雑化は、技術的負債の主要な原因の一つです。複雑なコードとは、構造が入り組んでおり、第三者が理解しづらく、メンテナンスが困難なものを指します。たとえば、以下のようなものが該当します。
- 重複や未使用の処理が多い
- 変数名が不明瞭で条件分岐が過剰にネストされている
- 命名規則やインデントなどに一貫性がない
このような複雑なコードは可読性が低く、修正や機能拡張、保守作業が困難になりがちです。特に、さらに、仕様書やマニュアルなどのドキュメントが不十分だと、コードがブラックボックス化するリスクもあります。
テストが不十分
テストが不十分になった際も技術的負債が発生しやすくなります。そのような状態でソフトウェアをリリースしてしまうと、リリース後に予期せぬ問題が発生する可能性があります。たとえば、リリース後に追加の修正やバグ対応に追われるといったことが考えられるでしょう。
テストフェーズを急いだり省略したりすることは、短期的には時間を節約できるかもしれません。しかし、長期的にはプロジェクト全体の進行に悪影響を与え、結果として多大な時間とコストを要する事態を招く可能性があるのです。
古いシステム・技術
古いシステムや技術を使い続けることも、技術的負債を引き起こす大きな要因です。これらは、現代の業界標準やセキュリティ要件に適応できないケースが多く、システム全体のパフォーマンス低下やセキュリティリスクの増大につながります。また、古い技術はサポートが終了している場合があり、トラブル発生時の解決が困難になるという側面もあります。
これらの問題は、長期的には開発効率の低下や、予期せぬシステム障害の原因となる可能性があります。
IT人材の技術不足
エンジニアの技術力不足も、技術的負債を生み出す要因の一つです。経験が浅いエンジニアは、最新技術やシステム設計の知識が十分でない場合があり、その場しのぎの対応に終始してしまうことがあります。
このような一時的な解決策は、往々にして不完全なコードや設計につながり、将来的に修正や改善が必要になるケースが少なくありません。また、技術力の不足は、複雑な問題に対する適切な解決策の選択や、長期的な視点での設計決定を困難にします。結果として、システムの保守性や拡張性が低下し、技術的負債が蓄積されてしまうのです。
このように、技術的負債が発生する主な原因はさまざまです。もし、これらの問題でお悩みの場合は、弊社「Solashi Co., Ltd」にお任せください。IT人材が豊富で物価が安いベトナムという立地を活かして、高品質なサービスを競争力のある価格でご提供いたします。お客様の状況をヒアリングして最適な施策を提案可能ですので、まずはお気軽にお問い合わせください。
技術的負債の4象限
技術的負債は、その性質と発生原因によって4つの象限に分類されます。これは「技術的負債の4象限」と呼ばれ、無謀、慎重、意図的、不注意の要素で構成されています。
この分類により、各負債の特性を理解し、適切な対策を講じることが可能になります。順番に解説しましょう。
慎重&意図的
慎重かつ意図的な技術的負債は、開発チームが現状と長期的影響を十分に考慮した上で選択するものです。この場合、チームは意図的に技術的負債を生み出すことを決定しています。たとえば、下記の例が該当します。
- ECサイトの支払い機能で、最初はクレジットカード決済のみをサポート。リリース後に他の決済方法を追加する計画を立てる
- 新しい機能の開発時に一時的に最適化されていないコードを採用してリリースする。その後のスプリントでリファクタリングを実施する
この種の負債は、リリース期限への対応や、段階的な設計改善を前提としており、チームが負債の存在を明確に認識しているのが特徴です。
無謀&意図的
無謀かつ意図的な技術的負債は、スピードや短期的利益を優先し、将来的な問題を承知の上で技術的妥協をするものです。このタイプでは、適切な設計方法の存在を認識しつつも、意図的にそれを無視し、効率的でない方法や不完全な実装を選択します。
主に、製品の迅速な市場投入が求められる状況で発生します。競争の激しい市場では、早期参入による先行者利益の獲得が重要視されます。しかし、このアプローチは負債の詳細な把握が不十分なまま進められることが多く、後に大きな負担となるリスクが高いのが特徴です。
慎重&不注意
慎重かつ不注意な技術的負債は、開発チームが慎重にシステム設計や技術選定を行ったにもかかわらず、予期せぬ要因により技術的負債が生じるケースを指します。
これは主に、外部要因や予測困難な状況変化によって引き起こされます。例えば、ビジネス要件の突然の変更や、新技術の急速な台頭により、既存のシステムの機能、性能、スケーラビリティの見直しが必要になる場合が該当します。
このタイプの負債は、チームの慎重な計画立案にもかかわらず発生するため、対応が難しく、システムの大幅な改修や再設計を要する可能性があります。
無謀&不注意
無謀かつ不注意な技術的負債は、開発チームが十分な知識や計画なしに開発を進行し、結果として技術的負債が発生するケースです。技術的な課題やリスクを十分に理解せず、無計画に進めた結果、将来的に多くの負債を抱えることになります。
経験不足や誤った判断によって、大規模な修正やリファクタリングが必要になるのが特徴です。たとえば、新しいフレームワークを採用したものの技術の理解が不十分で多くの実装ミスを犯すといったケースが該当します。
技術的負債を解消するポイント
技術的負債を効果的に解消するための主要なポイントを紹介します。これらのポイントを状況に応じて適切に組み合わせ、実践することで、開発効率の向上、製品品質の改善、そしてチームの生産性向上が期待できます。
- 「良い負債」と「悪い負債」に分類する
- 負債を優先順位付けする
- チーム全体で負債解消に取り組む
- 負債解消の効果を測定する指標を設定する
- 継続的な改善プロセスを確立する
- 技術スキルの向上と知識共有を促進する
ただし、人材不足やノウハウ不足などで、これらの対策を講じられないケースも少なくありません。その場合は、コンサルティングサービスを実施している会社を頼ることも、有効な選択肢です。そのような会社は豊富な経験をもとに、適切なソリューションを提案してくれるでしょう。
弊社「Solashi Co., Ltd」はベトナムに拠点を置くオフショア開発会社です。IT人材が豊富で物価が安いベトナムという立地を活かして、高品質なサービスを競争力のある価格でご提供いたします。お客様の状況をヒアリングして最適な施策を提案可能ですので、まずはお気軽にお問い合わせください。
「良い負債」と「悪い負債」に分類する
抱えている技術的負債を整理するために、「良い負債」と「悪い負債」に分類します。良い負債は、ビジネス戦略に基づいて意図的に取り入れたものであり、将来的な利益を見込んで受け入れた負債です。一方、悪い負債は不注意や知識不足から生じた望ましくない負債です。
この分類により、各負債の性質と影響を明確に理解し、優先的に対処すべき項目を特定できます。一般的に、悪い負債は予測不能の影響があるため、優先的に解消すべきとされます。定期的に負債の状況を見直し、分類を更新することで、より効果的な負債管理が可能になります。
負債を優先順位付けする
分類した負債には、優先順位を付けましょう。システムの安定性やセキュリティに関わる重大な問題、ビジネスへの影響が大きい負債を上位に置きます。
優先順位付けにより、限られたリソースを効果的に活用し、最大の効果を得られます。
チーム全体で負債解消に取り組む
技術的負債の解消をチーム全体の責任として位置付けましょう。特定の開発者だけでなく、全員が積極的に参加することが大切です。定期的なコードレビューやペアプログラミングを通じて、チーム全体でコード品質の向上に努めます。
チーム全員が負債解消の重要性を理解し、日々の開発作業の中で意識することで、長期的かつ持続可能な改善が実現できます。
負債解消の効果を測定する指標を設定する
技術的負債の解消効果を客観的に評価するため、適切な指標を設定することが重要です。コードの複雑性、テストカバレッジ、バグ発生率、アプリケーションのパフォーマンス、開発速度などが有効な指標として考えられます。
これらの指標を定期的に測定し、改善の進捗を可視化することで、取り組みの効果を確認できるようになるでしょう。
継続的な改善プロセスを確立する
技術的負債の解消を一時的な取り組みではなく、継続的な改善プロセスとして確立することが重要です。日常的な開発プロセスの一部として、負債解消のためのタスクを組み込みましょう。
例えば、新機能開発と並行してリファクタリングを行ったり、定期的に負債解消のための時間を確保したりします。この継続的な取り組みにより、新たな負債の蓄積を防ぎつつ、既存の負債を徐々に解消できます。長期的な視点で改善を続けることで、持続可能な開発環境が構築できます。
技術スキルの向上と知識共有を促進する
技術的負債の効果的な解消と予防には、チームメンバーの技術スキル向上と知識共有が不可欠です。定期的な勉強会やトレーニングセッションを開催し、最新の技術動向や効果的な開発プラクティスについて学ぶ機会を設けましょう。
また、チーム内でのベストプラクティスや学んだ教訓の共有を積極的に奨励することも効果的です。これにより、技術的負債を未然に防ぐための知識と文化が醸成されます。継続的な学習と成長の文化を築くことで、長期的にはプロジェクトの品質と効率性が向上し、技術的負債の蓄積を最小限に抑えられます。
技術的負債でお困りなら「Solashi」まで
ここでは、技術的負債の概要や種類、発生する原因、解消する方法について解説しました。技術的負債を放置すると、開発効率の低下、製品品質の劣化、そして最終的には顧客満足度の低下につながる可能性があります。そのため、適切な対応が必要不可欠です。
技術的負債でお困りの場合は、「Solashi Co., Ltd」にご相談ください。弊社はベトナムを拠点とするオフショア開発会社です。IT人材が豊富で物価の安いベトナムの立地を活かし、高品質なサービスを競争力のある価格で提供しています。
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島添 彰
合同会社Solashi Japan代表。1989年4月生まれ、福岡県出身。大阪府立大学大学院情報数理科学専攻修了。2014年サントリーホールディングスのIT機能をもつ「サントリーシステムテクノロジー株式会社」に入社。自動販売機の配送管理や効率化、販売管理システムの開発から運用、導入まで広く担当する。2017年にYper株式会社を創業、同社のCTO・CPOに就任。アプリ連動型の置き配バッグ「OKIPPA(オキッパ)」の立ち上げ・プロダクトのグロースに携わる。東洋経済社の名物企画「すごいベンチャー100」、Forbes誌による「Forbes 30 Under 30 Asia 2019」に選出される。